2012/01/11

君と別れて(1933松竹)


場末の芸者菊江の息子・義雄は、菊江が芸者をしている事を快く思わず、不良の仲間入りをしてしまう。義雄と心を通わす菊江の妹分芸者・照菊は、どうにかして前の義雄に戻ってほしいと願うが…。

♥現在神保町シアターで開催されている「巨匠たちのサイレント映画時代」にお邪魔してきました。
大ヒットを記録したという成瀬巳喜男監督作「君と別れて」、期待にたがわぬ傑作だった!
不良になった主人公たちの元に警官と思しき人物が近づいてくる描写や、義雄の靴下に開いた穴を巡るやり取りなどサイレント映画らしい遊び的なショットや切り返しが多くてうっとり。
クライマックス、カルメンが響く中で客に別れ話を切り出された菊江が、刃物を向けて揉み合いになるシーンは、階下でダンサーに見惚れる客たちと上で繰り広げられる乱闘を交互に見せて、手に汗握ってしまうほどの迫力。そしてくりっとした眼のヒロイン照菊が、キモい客に口説かれているシーンは、腕を掴まれているだけなのにとてもハラハラしてしまうの。
これらがひやひやしてしまうのは素敵な伴奏によるところも大きいけれど、たぶんそれ以上に、役者の表情を斜めから捉える監督の視線が大きいと思う。特に度々アップになる水久保澄子演じる照菊の魅力といったら!
水久保澄子は桂木洋子と野添ひとみを足して割った感じの風貌で、現代にも通じる洋風美少女。そんな彼女が悲しげに「このまま何処かに消えてしまいたい」と呟くとき、画面はきらきらと光りはじめて、事あるごとにフラッシュバックする田舎の海が、とても美しいものとして胸に迫ってくる。

義雄さんが一番好きだったこと忘れないでね

義雄は母親が自分を育てるために水商売をやっているという罪悪感と負い目から不良になるだけのガキなので、背負っているものが違う照ちゃんとは結ばれるはずもなく、そこがまたせつない。

これで死ねたら幸せだったのに
でもわたし生きるわ どんなにみじめな思いをしても絶対に生き抜くわ

まっすぐな目で前を見据える照菊=澄子の姿に、この後現実世界で自殺未遂騒動やフィリピン出航を遂げる予感はみじんも感じられない。様々な憶測の流れる水久保澄子の後世だけれど、照ちゃんのようにきらきらした目で生活していたらいいなと思った。

上:菊江&照菊の「ヤルセナキオ」的一場面。菊江が白髪を一本ずつ抜いていくシーンなんて、直視できない。

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ちなみに。劇中でもやっぱり水久保澄子は明治製菓のチョコレートを取り出して主人公に渡していました。さすがキャンペーンガール!

わたしが明治製菓のキャンペーンガールとして真っ先に思い出すのは加賀まりこ。
可愛い♥


監督:成瀬巳喜男 撮影: 猪飼助太郎
出演:吉川満子、磯野秋雄、水久保澄子、河村黎吉
1933(昭和8年) 72min

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